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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)1306号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人和田良一、同金山忠弘、同大下慶郎の上告理由第一点および同第二点(一)について。

論旨は、要するに、原判決は、本件解雇が上告会社に対する訴外新宿木材市場株式会社(以下、単に訴外会社という。)の強要によるもので、上告会社の自発的な意思によるものでないことを認定しながら、本件解雇が不当労働行為による無効のものであるとしているが、右は、不当労働行為の成立には不当労働行為意思の存在を必要とし、それが当該不利益取扱いの決定的動機であることを要するという労働組合法七条の解釈を誤つたもので、原判決には理由不備または理由齟齬の違法がある、と主張する。

しかし、原判決の確定するところによれば、訴外会社の上告会社に対する被上告人解雇の要求が原判示の争議における被上告人の正当な組合活動を理由とするもので、そのことは上告会社において十分に認識しており、上告会社は、訴外会社の要求を容れて被上告人を解雇しなければ、自己の営業の続行が不可能になるとの判断のもとに、右要求を不当なものとしながら被上告人に対して解雇の意思を表示した、というのである。そして、これによると、被上告人の正当な組合活動を嫌忌してこれを上告会社の企業外に排除せしめようとする訴外会社の意図は、同会社の強要により、その意図が奈辺にあるかを知りつつやむなく被上告人を解雇した上告会社の意思に直結し、そのまま上告会社の意思内容を形成したとみるべきであつて、ここに本件解雇の動機があつたものということができる。論旨は、原判決も明らかに認定しているところの強要のもとにおいては、上告会社の意思として存在したのは、被上告人を「解雇しなければ会社の営業の続行が不可能になるとの判断」のみであるとして、あたかも経営維持の必要が本件解雇の動機であるかのごとくいうが、被上告人を解雇しなければ訴外会社の協力を得られず、上告会社の営業の続行が不可能になるという点は、前記の訴外会社による強要の事実をより具体的に説明したにとどまるのであつて、被上告人の正当な組合活動に対する嫌忌と経営続行の不可能との両者は表裏一体の関係にあるというべきであり、したがつて、上告会社の営業の続行が不可能になるという点は、たとえば、使用者側の事業の合理化のための人員整理の必要などの事情とは異なり、被上告人の正当な組合活動に対する嫌忌の点と別個独立に考慮されるべき他の動機であるとすることはできない。

以上に説示するところによれば、原判決がその確定した事実関係のもとにおいて、前記の認識をもつてされた本件解雇の意思表示は、たとえ自発的なものでなかつたとしても、上告会社に不当労働行為をする意思がなかつたとはいえないとした判断は、結局正当であつて、その過程にも所論の違法は認められない。論旨は理由がない。

同第二点(二)および同第三点について。

論旨は、要するに、労働組合法七条に違反してされた解雇も当然無効となるものではないから、本件解雇が同条に違反するとして、ただちにこれを無効とした原判決には理由不備の違法があり、また、上告会社が訴外会社の解雇要求に応じなければ、営業の続行が不可能となり、会社として破綻するを免れず、上告会社の役員および従業員は家族とともに路頭に迷うこととなるにもかかわらず、原判決が労働者の団結権(憲法二八条)と財産権の保障(同二九条)との権衡を考慮することなく、本件解雇を無効としたのは、上告会社の財産権に対する憲法上の保障を無視し、憲法の解釈を誤つたものである、と主張する。

しかし労働組合法七条に違反した、いわゆる不当労働行為にあたる解雇が無効であることは、当裁判所昭和四二年(オ)第一〇〇五号同四三年四月九日第三小法廷判決(民集二二巻四号八四五頁)の明らかにするところであつて、原判決に所論の違法は認められない。また、所論は憲法違背をいうけれども、その実質は、原判決に示された同条の解釈の違法を主張するに過ぎず、原判決がその確定した事実関係のもとにおいて上告会社に不当労働行為意思がなかつたとはいえないとして、同条の適用を肯定した判断の正当であることは、第一点につき説示したとおりである。論旨は理由がない。

同第四点について。

論旨は、要するに、原判決が、上告会社の事業は企業として成りたたないと確言できる事情でなかつたと認定しているのは、経験法則を無視したか、または審理不尽の違法がある、と主張する。

しかし、原判決は、上告会社のした本件解雇が、訴外会社の強要により、営業の破綻を免れるためやむなくされたものであるとしても、それは解雇の効力の有無とは関係がないむねを判示しているのであるから、上告会社が本件解雇をしなかつたとしても、その事業が企業として成りたたないと確言できる事情でなかつたむねの認定は、単に事情をつけ加えたものに過ぎない。したがつて、論旨は、原判決中の傍論を非難するに帰し、理由がない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関根小郷 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄)

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